ピュレグミおじさんの備忘録

おじさんの赤裸々日記です

20190323#2

彼がハンナリ族の支配地域に行ったのには理由があった。

彼は彼の願いが叶えられる徴を察知し、それを実現するために行動をした。

そしてそれは、現実のものとなった。

しかし彼は多くのことを学ぶこととなる。

第一に、願いが叶ったとはいえ、それが即ち幸福では、必ずしも無いこと。

第二に、彼はもう少し人を見極めた方がよいということ。

第三に……。

20190323#1

彼はその日、ハンナリ族の支配地域に居た。

エスカレーターで立つ側は、彼の民族とハンナリ族とで共通していて、彼は本能的にハンナリ族が同じ文化圏に属しているのだと悟った。

彼の中で、ハンナリ族との友好を実現する可能性が開いた。

しかしその後入った民族食堂は、値段だけは民族の誇りを感じさせるものだったが、接客という点ではお粗末なものだった。

「二度とこの地を踏むまい」

彼は静かに呟いた。

そしてその後実際に、生涯を通じて彼がハンナリ族の支配地域に足を踏み入れることはなかった。

20190320#1

彼の労働現場には、かつての彼の宿敵の女がいた。

遥か昔、その現場には冷戦が展開していた。

ある日突然、女の支配地域に、彼という新興勢力が現れた。

女は権力の危機を肌で察した。

即座に女はイミューンシステムに戒厳令を発した。

彼は構わずヘッドクォーターまで乗り込んだ、嫌な微笑みを浮かべながら。

しかし、戦いは長くは続かなかった。

ある時点で、彼は、自らの負けを認めた。

以来、現場には平和が戻り、彼と女とは互いに手を取り合い、現場には笑いが絶えない。

20190319#2

雑居ビルのガラス戸を開けると、彼はブラジルの地に立っていた。

南の国の空気が彼の肺に溶け込んでいった。

そこは、リオデジャネイロサンパウロも、トーキョーもモスクワもないような、特別なブラジルだった。

デジタルサンバに身体は揺れ、酒と唐辛子の刺激が命を燃やす。

彼はすっかり良い気分で、「ボア、ノイチ」と微笑みながら、まだ寒さの残る故郷へと帰っていった。

20190319#1

そして彼は、クライムバスターズと呼ばれるパワフルなチームの目の前で、煙草を吹かしていた。

しかし、当たり前のことだが、クライムバスターズは彼のことをちらりと見るような真似すらしなかった。

ひとつは彼がクライムバスターズの視界の盲点に位置していたから。

もうひとつは、彼自身が、それをクライムだとは信じていないから。

彼は呆れた笑いで鼻を鳴らし、もう一本煙草を取り出した。

20190305#2

帰りの電車で、彼は影の人々との出会いについて考えていた。

影の人々は彼の連絡先を聞き、「女を紹介してやるから飯でもどうだ」と言った。

彼は影の人々の女のことを、密かに魅力的だと思ったことが幾度かある。

そして彼はふと、思い出した。

彼が世界に対し、いかなる要望を述べたかを。

世界が要望に応える時、それは人間には思いもよらない道筋を辿るということを。

スリランカ女も悪くねえ」

彼は一人で苦笑いをした。

20190305#1

前日に鑑賞した映画の影響で、その日、彼は影の色をした異国の友人が欲しいと願っていた。

帰り道、彼が中央公園の噴水の横で瞑想をはじめると、何やら早口で呪文を詠唱しているような声がしたので、目を開けると、影の色をした人々が座り込んで話していた。

彼は人々に、「あなた方の言葉が気に入った。グルーヴがある」と告げると、人々の中の一人が彼の肩を抱き寄せ、酒を勧めた。

しばらくの間、彼は人々と話をした。

人々が彼の歳を尋ね、彼が三十であると答えると、人々は一様に驚き、彼がもっと若く見えると伝えた。

そうなのだ、彼は三十の年頃なのだ。

彼の青春時代は幕を閉じた。

そして、これからは、新しい時代がくる。